プルトニウムという放射能とその被曝の特徴
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/kouen/Pu-risk.pdf
Ⅰ.プルトニウムの危険性の根源
プルトニウムは天然には存在せず、人類が初めて作り出した放射性核種であり、かつて人類が遭遇し
た物質のうちでも最高の毒性を持つと言われる。その根拠は、プルトニウムがアルファ(α)線を放出
すること、比放射能が高いこと、そして体内での代謝挙動にある。
Ⅱ.α線による被曝
この世に存在するあらゆるものは、生命体を含め、原子・分子から成り立っている。分子は原子が結
合したものだが、その結合のエネルギーは数電子ボルト(1個の電子を1ボルトの電圧に逆らって移動
させるために必要なエネルギーが1電子ボルト)である。一方、放射線のエネルギーはキロ電子ボルト
あるいはミリオン電子ボルトであらわされるように、分子が結合して生命体を形作っているエネルギー
の千倍、百万倍というような桁違いのエネルギーである。生命体に放射線が飛び込んでくれば、分子は
いともたやすくその結合を破壊される。
ただし、一口に放射線といっても、レントゲンが発見したX 線のほか、α線、ベータ(β)線、ガン
マ(γ)線、中性子線、重粒子線と言うように多種多様な放射線がある。そして、それぞれ透過度が違
う。X 線やγ線の正体は光子であり、透過度が大きい。そのため、X 線やγ線を放出する放射性核種が
体外にあっても、人体は被曝する。また、γ線を放出する放射能を仮に体内に取り込んだ場合には、一
部のγ線は人体の外に飛び出して行ってしまうし、人体に被曝を与える場合も希薄で広範囲に与える。
一方、α線の正体はヘリウムの原子核で透過力が著しく弱く、紙1 枚あれば遮蔽できる。したがって、
外部被曝に関してはγ線が恐ろしいが、α線は問題にならない。逆に、α線を放出する放射能を体内に
取り込んでしまえば、その放射能が存在しているごくごく近傍の細胞だけに濃密な被曝を与える。たと
えば、プルトニウム(Pu239)のα線のエネルギーは5.1 ミリオン電子ボルト(MeV)であり、組織中の
飛程はわずか45μm しかない。
物理・化学的に被曝を計る場合の単位は「グレイ」であり、物体1kg が放射線から1 ジュールのエネ
ルギーを得た場合に相当する。しかし、生物的には放射線の透過度が違うため、エネルギーを受ける密
度が異なり、影響の発現にも差が出てくる。そこで、生物的な被曝を計る単位としては「シーベルト」
を使うことにし、「グレイ」単位の被曝量に線質係数なる係数をかけて求めることになった。γ線とβ
線に対する線質係数は1であり、α線に対しては20 とするように定められている。すなわち、γ線や
β線の場合には、「1グレイ」は「1シーベルト」であるが、α線の場合には「1 グレイ」は「20 シー
ベルト」となる。つまり、同じだけのエネルギーを放射線から受ける場合でも、α線から受ける場合に
はγ線やβ線から受けるよりも20 倍危険なのである。
Ⅲ.比放射能
1895 年11 月、ドイツの物理学者レントゲンは陰極管(TV のブラウン
管もその一種)の実験中に偶然、正体不明の放射線を発見した。人類が放
射線を発見した最初であった。翌96 年にはフランスの物理学者ベクレル
がウランも謎の放射線を発することを見つけた。つまり放射性物質の発見
である。98 年にはキュリー夫妻がポロニウム(キュリー夫人の祖国ポー
ランドにちなんで命名)とラジウムを発見した。
「ベクレル」や「キュリー」は放射能の強さを表す単位となっている。
放射能の強さは決められた時間にいくつの原子核が崩壊するかで測り、そ
れを決めるのは原子核の質量数と崩壊定数(半減期とは逆数関係にある)
である。1975 年に放射能の国際単位は「ベクレル」とされたが、「ベクレ
ル」は1秒間に1個の原子核が崩壊する時の放射能の強さを表す。「比放
射能」とは重さ当たりの放射能の強さのことであり、質量数をM、半減
期をT1/2 で表した場合、ベクレルを単位とした比放射能は下の式で計算で
きる。
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