世界のキリスト教会の現況
現在、世界の総人口は六七億人を超え、さらに急激な増加傾向にある。現代世界の宗教分布を見ると、最大の宗教グループはキリスト教で、総人口の約三三%を占める。第二位はイスラム教で約二〇%、ついでヒンズー教が約一三%、仏教が約六%、民族宗教その他が約二八%と続く(『ブリタニカ国際年鑑』二〇〇四年版による)。
これを地域別に見ると、ヨーロッパの七億三千万人のうち、ローマ・カトリックが三八%、プロテスタントが一〇%、東方正教会が二二%、イギリス国教会(聖公会)が四%で、全体の約七五%がキリスト教徒である。カトリックは、イタリアから西方のフランス、スペイン、ポルトガルなどにおいて優勢である。プロテスタントは、宗教改革の旗手となったルターが活躍したドイツ、カルヴァンのスイス、ジュネーブ市から北方のオランダ、デンマーク、スウェーデン、ノルウエー、フィンランドへと広がる。後の三国では、今日なおルター派(ルーテル教会)が国教である。
次に北アメリカの三億三千万人の内では、カトリックが二四%、プロテスタントが二二%ほどで、国民の約半数が何らかの形でキリスト教会とつながりがある。アメリカは従来「WASP{ワスプ}」と呼ばれる階層の人々が社会のリーダーシップを取ってきたが、それは「白人で、アングロ・サクソン族の系譜をもち、プロテスタント信徒」という条件を意味する。歴代の大統領もこの範に漏れない。唯一の例外はカトリック教徒であったジョン・F・ケネディで、他はすべてプロテスタント信者である。保守的キリスト教会を大きな支えとして成立し、二〇〇九年に任期満了を迎えたブッシュ政権内で活躍したライス国務長官や、前年の大統領選挙に勝利し、〇九年一月に就任した民主党のオバマ氏が初の黒人のアメリカ大統領になったことなど、徐々にWASP体制は崩れてきてはいるが、依然としてキリスト教会の影響力は大きなものがある。
またラテン・アメリカ(メキシコ、中央アメリカおよび南アメリカ、西インド諸島など)の五億五千万人の内訳は、八七%がカトリック、一〇%がプロテスタントで、その他は三%弱に過ぎない。
かつてイギリスの植民地が多かったオセアニア地域の三千二百万人のうち、カトリックが二六%、プロテスタントはイギリス聖公会系の一七%を中核にして四二%であり、ほぼ三人に二人がクリスチャンである。
さらにアフリカの八億六千万人のうち、イスラム教が四一%と優勢であるが、キリスト教諸派を合算すると三八%になり、ほぼ拮抗{きっこう}している。
キリスト教徒の割合がもっとも少ないのがアジア地域である。人口およそ四〇億人のうちイスラム教が二三%、ヒンズー教が二二%、仏教が一〇%であるのに対して、キリスト教は九%ほどである。そのような中でも、フィリピン人の八三%はカトリック教徒であり、大統領の就任式も教会で行われる。そこには英雄崇拝などの土着の慣習との混淆{こんこう}も認められるが、アジアで唯一のキリスト教国であると言える。大韓民国でも三〇%以上がクリスチャンで、他の諸国とは違って、一定の影響力を有する集団となっている。数人のプロテスタント派の大統領がいた中で、金大中氏はカトリック信者であった。中華人民共和国では、政府に公認されている「三自愛教会」は説教の内容や布教活動などを一部制限されているが、多くの人々が「家の教会」と呼ばれる所に集っている。その総数は八千万人とも一億人とも言われているが、正確な統計は得られていない。
またロシア共和国の初代大統領であったエリツィン氏は、無神論を旗印としたソビエト連邦の中にあってもロシア正教会の教会で幼児洗礼を受けていたことを自著で告白した。一九九一年にソ連が崩壊して後、ロシア共和国内ではキリスト教信仰が劇的に復興している。かつてレニングラード(「レーニンの町」の意)と呼ばれた街が旧来のサンクト・ペテルブルグ(「聖ペテロの町」の意)という呼称に戻されたのも、その一例である。
我が国では、あまり熟慮せず「自分は無神論である」と言う人が多いが、これは宗教的アイデンティティを重視する世界の人の耳には、「私は自己中心的に生きている」というふうに響く。「自分以上に大切なものを持たないのか」と、人間性への疑問を抱かれる可能性も大である。いわば、「日本の常識は世界の非常識」となりかねない。そういう意味でも、国際化社会における常識としてキリスト教の教えとその歴史の概略をわきまえておくことは必要である。
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