日本語の聖書にはどのような翻訳があるのか

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聖書の日本語訳は実に多くあり、どれを選んでいいのか迷ってしまうほどです。以下、入手可能なものを列記してみました。参考にしていただければ幸いです。

◆プロテスタント系の聖書

『口語訳』(日本聖書協会、19541955
 戦後、『新共同訳』が出るまで最も普及した聖書です。これ以前は『文語訳』(日本聖書協会)が主流でしたが、それに取って代わりました。現在出版されている聖書はほとんどが口語なのですが、「口語訳」という言い方で日本聖書協会の『口語訳』を指すことが多いです。かなり長い間、標準的な聖書として用いられてきました。著作権が切れたので、その意味ではありがたいバーションとなりました。個人的には一番好きな翻訳です(最初に使った聖書なので)。

『新共同訳』(日本聖書協会、1987
 カトリックとプロテスタントの聖書学者が協力して翻訳したもので、カトリック教会では正式にミサの朗読に使われています(2006年時点)。プロテスタント教会でも主要な教派では礼拝で用いられているので、現在、一番スタンダートなものとなっています。
 新共同訳の場合、旧約聖書の収録巻数が異なる二つのタイプが出版されています。プロテスタント教会が認める旧約聖書の正典は「39巻」ですが、カトリック教会では39巻以外の7巻(続編あるいは第二正典と言われます)にも権威を認め「46巻」を正典としています。後者の立場の聖書は「続編付き」として発行されています。
 また、新共同訳にはさまざまな工夫を凝らしたバーションがあります。「引照付き」(関連箇所を引けるようにした欄外の付録)や、キリストの言葉をマーカーで色分けしたもの、名画を取り入れた「アート・バイブル」、分冊版聖書など、たくさんの版が出ています。とくに聖書本文の解説(注解)が付いた「スタディ・バイブル」(新約聖書だけの刊行)は、非常に使いやすく、お薦めのバーションです。
 追記:新約聖書と旧約聖書が一緒になった「スタディ・バイブル」が刊行されました(2006年秋)。


『共同訳』(旧共同訳、日本聖書協会、1978
 日本で最初にカトリックとプロテスタントの共同訳として出版されたものです。新約聖書と旧約聖書の一部(ヨブ記、ルツ記、ヨナ書、詩編の一部)が翻訳されました。人名表記の「イエス」「マタイ」「ヨハネ」は、それぞれ「イエスス」「マタイオス」「ヨハンネス」のような原語読みで表記される一方、訳文そのものは非常に柔らかく、親しみやすい文体になりました。しかしながら、意訳したように思われ教会内部からの支持を得られなかったため、これらの特徴は後の「新共同訳」には継承されませんでした。
 日本聖書協会で発行した版は絶版になりましたが、講談社から『新約聖書―共同訳・全注』(学術文庫318)として出版されています。この版では注解が付いていますが、フランシスコ会の故堀田雄康神父が書いたものです。

『新改訳』(日本聖書刊行会、1968
 プロテスタントの「福音派」と呼ばれる保守的な立場をとる学者たちによって翻訳されたものです。「新改訳しか使わない」という熱心な支持者が多く、福音派の教会では一番信頼されているようです。「ですます」調の文体が新鮮に感じられます。簡単な注解と引照がついたバージョンも出ています。
 2004年には「改訂第三版」が出版されました。差別的表現とされる「らい病」は「ツァラアトに冒された人」に変更されたほか、新しい研究の成果を盛り込み、約900箇所が改訂されたそうです。


◆カトリック系の聖書

『フランシスコ会訳』(サンパウロ、新約1979、旧約2004
 はじめは厳密な注解と解説がついた分冊の形で各書が出版され、その後一冊にまとめられました。現在は新約聖書のみが合本されています(簡単な注と引照付き)。旧約聖書は分冊の刊行が終わり、もうしばらくすれば(2008年刊行予定?)、新約と合わせて全巻が一冊にまとめられ刊行されるそうです。カトリック信徒ならぜひとも揃えておきたい訳です。
 元来、カトリック教会には「聖書には注解をつけて刊行する」という決まりがありました。わかりにくい箇所や、歴史的に何度も異説が生じてきた箇所、あるいはカトリックならこう理解しなくてはならない箇所などを「注」で示していました。自由を強調する現代の世相では人気がなかったこの取り決めも、最近ではカトリック以外の聖書学者にも評価されるようになってきています。やはり聖書は専門家の助けなくしてわかるものではないという認識が強まったのでしょう。
 また、フランシスコ会訳の特徴として、分冊版と合本した版とでは部分的に訳文が異なっている点があげられます。これは、同訳が随時改訂作業を加えているからで、新約の分冊ではこれまでヨハネ福音書やマルコ福音書などの改訂版が出ています。旧約との合本にあたって、新約も全面的に改定されるようです。

『バルバロ訳』(講談社、1980
 サレジオ会の故バルバロ神父の個人訳で、フランシスコ会訳が出る以前は、カトリック教会で最も使われていた聖書です。もともとは、デルコル神父との共訳でドンボスコ社から出版されたのですが(1964年)、講談社に版権が移ったときに、バルバロ神父が一人で全体を改訳しました。カトリックの教えに忠実な注解が付いているので今も根強い人気があります。しかし原語からの翻訳ではなく、原文を参照しながらラテン語訳聖書から訳したものです。
 教会の教えに忠実でありたいと願うカトリック信徒には、貴重な一冊です。旧約聖書はカトリック教会の46正典の立場を採っています。新約聖書だけの版も発売されています。


◆それ以外のもの

『新約聖書翻訳委員会訳』(岩波書店、199596
 東京大学文学部西洋古典学科出身の学者たちの手によるものです。新約は可能な限り逐語的に訳してあるのが特徴だそうです。各書を訳した担当者が明記されています。分冊版には、各巻の解説に加え簡単な注と引照がついています。最初は5分冊で刊行されましたが、その後合本されました。

『旧約聖書翻訳委員会訳』(岩波書店、19972004
 この翻訳の担当者も新共同訳に参加していない先生方です。担当者が明記されていること、解説と注がついていることなどの特徴は新約と同じです。全15巻の分冊での発行が終わり、現在は4分冊版も発売中です。


◆個人訳

 個人訳で旧約・新約全体を扱ったものは、『現代訳』(羊群社、尾山令仁訳)という特殊な聖書を除き、『バルバロ訳』以外にありません。旧約聖書の個人訳では、『関根正雄訳・新訳旧約聖書』(教文館)があります。学問的には最高のものと言われますが、一万六千円と高価です。「新訳」とわざわざ題名に入れているわけは、関根正雄氏は以前岩波書店から旧約聖書の分冊版を出していたので、それと区別するためです。以前の訳が大きく改訂されています。岩波版は文庫判で、教文館版にはない脚注が付いているのが魅力です。
  新約聖書の個人訳では、『塚本虎二訳』(岩波文庫)、『前田護郎訳』(中央公論社「世界の名著」)、『柳生直行訳』(新教出版社)などが入手可能なものです。
 また、カトリックの個人訳では『ラゲ訳』(サンパウロ)という文語訳が発売されています(新約のみ、品切)。また、新世社からフランシスコ会の本田哲郎神父の個人訳が出版されています。新約のみですが分冊で刊行中。社会的に「小さくされた者」の視点から訳したそうです。