12人の息子たちに語ったヤコブの祝福の預言
創世記49章
はじめに
49章はヤコブのその生涯の最期に自分の力を振り絞って自分の息子たちを呼び寄せて語った祝福のことばが記されています。呪いのことばを語られた息子たちもいます。「終わりの日に」(旧約で初めて登場する「べ・アハリート」(בְּאֲחֳרִית)です)、息子たちに起こることが預言されていますが、そのすべてが啓示されているわけではありません。しかし、かなりの部分においてその内容は成就していきます。
1. 祝福の順位とその特徴
祝福の順を見ると、最初の4番目までと最後の11, 12番目は正当な出生順ですが、後の6人の祝福の順は無作為的に見えます。いずれにしても、妻のレアから生まれた息子たち6人を祝福し、そのあとでレアとラケルのそれぞれの女奴隷たちから生まれた息子たちの4人を、そして最後にラケルから生まれた2人の息子が祝福されています。
画像の説明
この図を見ながら思わされることは、ヤコブの最愛の妻ラケルになかなか子どもが与えられず、その不妊のゆえに、自分だけが蚊帳の外に置かれた苦しみの思いが強かったと想像できます。しかし、やがて与えられた息子たちから神の救いのご計画を担う立役者が現われたのです。
この図にみられる特徴として、ほとんど緑色の枠の中にいる人物のところにしかヘブル動詞の強意形が使われていないという事実です。
レアから生まれた息子たちの中で、特に注目すべき人物はユダです。ヤコブもそのユダに王権が与えられて、やがてイスラエルの民のリーダーシップを取ることになることを預言しています。その預言の中に「ぶどう」に関する語彙が使われていることがひとつの特徴です。やがてイスラエルが神を礼拝する民となってから、その礼拝を司る祭司職を担うことになるレビについては、そのことには触れていません。レビはシメオンと共に、やがて「イスラエルの中に散らそう」という預言についてはやがて成就します。しかしその成就の仕方はそれぞれ異なります。前者のレビは神の礼拝を司るために各部族の中に配分されますが、後者のシメオンについては、やがてその数が少なくなり、他の部族の中に吸収されてしまいます。
また、レアの6人の息子のうち後から生まれた2人の息子たちとレアとラケルの女奴隷たちから生まれた息子たちの祝福が出生順ではなく、無作為に祝福を受けていますが、それらの部族から救済史的な面において重要な人物は輩出してはおりません。ペリシテ人と戦った士師のサムソンはダン族でした。
2. 重要な人物として注目される4人の息子
(1) レビ
ヤコブの預言的祝福の中にはレビは注目されていませんが、後に重要な部族となります。それはヨセフの次に与えられるリーダーとして、神を礼拝する幕屋の働きを担うこ頭角になるレビ族です。レビの中にはイスラエルの民をエジプトから救いだすモーセ、その兄の大祭司となるアロン、預言者サムエル、そしてダビデ時代の霊的賛美リーダーとなるアサフ、ヘマン、エタンなどがこの部族から出ます。新約時代のバプテスマのヨハネはレビ族の末裔なのです。
(2) ユダ
ヨセフ物語ではベニヤミンの身代わりを買って出る人物として目立っていますが、この部族が頭角を表わすのは王制時代を迎えた時からです。この部族はやがてユダ王国として統治します。バビロン捕囚後、イスラエルは王制はなくなりますが、ユダ族の一人エズラが活躍します。ユダ族からやがてイエス・キリストが登場します。そしてその王権は永遠に堅く立ちます。
49:10では「王権はユダを離れず、統治者の杖はその足の間を離れることはない。ついにはシロが来て、国々の民は彼に従う。」とあります。「シロ」(שִׁלֹה)とはヘブル語の動詞「シャーラー」(שָׁלָה)に由来し、「栄える、引き出す、抜き出す」という意味です。つまり「シロ」はユダ族から引き出されるメシアを表わす特別な名前なのです。
さらに注目すべきことに、「シロが来る」というフレーズをヘブル語では「ヤーヴォー・シーロー」と書きます。「シロが来る」というだけでは、一見何のことか分からないのですが、このフレーズを右の文字から数値に換算してみると以下のようになるのです。
(3) ヨセフ
ヨセフは長子の権利をヤコブから受け継ぎ、「実のなる枝として」祝福されます。ヨセフに対する預言は傑出しています。「祝福」という名詞(6回)と動詞(1回)を合わせて7回も使われています。エジプトのゴシェンの地において、やがてイスラエルの息子たちは部族へと成長し、やがてイスラエルの民として膨らんでいく、その要となった人物そこヨセフです。
ちなみに、ヨセフの二人の息子のひとり(弟)エフライム部族からは、モーセの従者となってカナンの地にイスラエルの民を導くヨシュアが登場します。もうひとり(兄)のマナセ部族は、ヤコブがかつてシェケムの血で買い取った土地を分け与えますが、その部族からは特別傑出した人物は出ていません。
(4) ベニヤミン
この部族からは、士師時代に登場する左利きのエフデ、イスラエルの最初の王となったサウル、ペルシャの地でユダヤ人滅亡の危機を救ったエステル、そして新約時代には使徒パウロを輩出します。
まとめ
イスラエルの歴史をたどるならば、長子の権威は、ヤコブからヨセフへ、そしてレビ族のモーセへ、そしてエフライム族のヨシュアへ、そして士師の時代を経て、ベニヤミン族のサウルへ、そしてユダ族のダビデ、ソロモンとつながって行き、イエス・キリストにまでつながって行きます。
ヤコブの時点では、レビの祭司職は啓示されていなかったようです。あるいは、このヤコブの祝福の預言の資料がユダ族側のものとして伝えられてきたからかもしれません。
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